相続財産の分離
相続財産分離の概念
- 「相続財産分離」とは、相続が開始した後に相続債権者、遺贈を受けた者、相続人の債権者の請求により、相続財産と相続人の固有財産を分離することをいいます(「民法」第1045条第1項)。
- これは、相続財産が相続人の固有財産と混合した場合、相続財産より相続債務の方が多い場合、相続人の債権者にとって不利益になり、相続人の固有財産よりその債務が多い場合、相続債権者及び遺贈を受けた者に不利益になることを防ぐためのものです。
請求権者
- 相続債権者や遺贈を受けた者または相続人の債権者は、相続開始地の家庭裁判所に財産分離を請求することができます(「民法」第1045条第1項及び「家事訴訟法」第44条第1項第6号)。
相手方
- 相続財産分離を請求することができる相手方は相続人であり、相続人を知ることができない場合、相続財産管理人が相手方になります。
· 相続人が複数の場合、全員を相手方にしなければなりません。
請求期限
- 請求は相続が開始した日、つまり被相続人が死亡した日から3か月以内にしなければなりません(「民法」第1045条第1項)。
- 相続人が相続の承認または放棄をしていない間は、被相続人が死亡した日から3か月が経過した後でも、財産の分離を裁判所に請求することができます(「民法」第1045条第2項)。これは、相続の承認や放棄期限が「相続開始を知った日から」3か月以内(「民法」第1019条第1項)であるため、相続開始日(被相続人が死亡した日)から3か月より長くなることがあるからです。
請求の場所(管轄裁判所)
- 相続開始地の家庭裁判所において、相続財産の分離を請求します[「家事訴訟法」第2条第1項第2号カ目35)、第44条第6号及び第39条] 。
相続財産分離の手続き
家庭裁判所の財産分離命令
- 請求権者の財産分離請求が適法に行われた場合、家庭裁判所は財産分離を命じます。
債権者等の公告・催告
- 家庭裁判所が相続財産の分離請求により財産の分離を命じた場合、その請求者は、5日以内に一般相続債権者と遺贈を受けた者に対し、財産分離命令があった事実と、一定期間内にその債権または受贈を申告するよう公告しなければなりません。その期限は、2か月以上でなければなりません(「民法」第1046条第1項)。
- 相続財産分離請求者は、知っている相続債権者及び受贈者に対し、それぞれの債権及び受贈の申告を催告しなければなりません。知っている相続債権者及び受贈者は、分離した相続財産の清算から除外できません(「民法」第1046条第2項及び第89条)。
相続財産管理に関する処分命令
- 家庭裁判所が財産の分離を命じた場合、相続財産の管理について必要な処分を命ずることができます(「民法」第1047条第1項)。
- 相続人が単純承認を行った後でも、財産分離の命令がある場合、相続財産に対し、自己の固有財産と同じ注意で管理しなければなりません(「民法」第1048条第1項)。
- 相続人は相続債権者、相続人の債権者、または受贈者の請求がある場合は財産管理の処理状況を報告し、財産管理が終了したときは、遅滞なく、その顛末を報告しなければなりません(「民法」第1048条第2項及び第683条)。
· 相続人は相続財産管理の処理により受け取った金銭、その他の物、その受け取った果実を相続債権者、相続人の債権者、または受贈者に引き渡さなければなりません(「民法」第1048条第2抗と第684条第1項)。
· 相続人が相続債権者、相続人の債権者、または受贈者のために、自分の名義で取得した権利は、相続人に移転しなければなりません(「民法」第1048条第2項及び第684条第2項)。
· 相続人が相続債権者、相続人の債権者、または受贈者に引き渡す金銭、または相続人の利益のために使用する金銭を、自分のために消費したときは、消費した日以降の利息を支払う必要があり、その他、損害があれば、それを賠償しなければなりません(「民法」第1048条第2項及び第685条)。
· 相続人が相続財産管理の処理について必要経費を支払った場合、相続債権者、相続人の債権者、または受贈者に対し、支払った日以降の利息を請求することができます(「民法」第1048条2項及び第688条第1項)。
· 相続人が財産管理の処理に必要な債務を負担した場合、相続債権者、相続人の債権者、または受贈者に、自分に代わってこれを返済させることができ、その債務が返済期日に達していないとき、相当の担保を提供させることができます(「民法」第1048条第2項及び第688条第2項)。
相続財産分離の効果
相続財産分離の効果
- 財産分離の命令がある場合、被相続人に対する相続人の財産上権利義務は消滅しません(「民法」第1050条)。
財産分離の対抗要件
- ただし、相続財産である不動産については、財産の分離を登記しないと、第三者に対抗することができません(「民法」第1049条)。
配当返済
- 相続人は相続が開始した日から3か月以内(「民法」第1045条)、及び債権者に対する公告・催告期限(「民法」第1046条)が切れる前には、相続債権者と遺贈を受けた者に対し、返済を拒否することができます(「民法」第1051条第1項)。
- 上記の期限満了後、相続人は相続財産として財産分離の請求またはその期限内に申し出た相続債権者、遺贈を受けた者、相続人が知っている相続債権者、遺贈を受けた者に対し各債権額または受贈額の割合に合わせて返済しなければなりません。しかし、先順位の債権者の権利を侵害することはできません(「民法」第1051条第2項)。
- 相続人は返済期日に達していない債権にも、各債権額の割合に合わせて返済しなければなりません(「民法」第1051条第3項及び第1035条第1項)。
- 相続人は相続債権者に対する返済を完了した後でなければ、遺贈を受けた者に返済できません(「民法」第1051条第3項及び第1036条)。
- 相続債権者や遺贈を受けた者に返済(「民法」第1034条から第1036条まで)するために相続財産の全部または一部を売却する必要がある場合、「民事執行法」に基づく競売を行う必要があります(「民法」第1051条第3項及び第1037条)。
不当返済
- 相続人が債権者のために公告や催告(「民法」第1032条)を怠り、または「民法」の規定(「民法」第1033条から第1036条まで)に違反してある相続債権者や遺贈を受けた者に返済することにより、他の相続債権者や遺贈を受けた者に対して返済できなくなったときは、相続人は、その損害を賠償するしなければなりません。
固有財産からの返済
- 不当返済(「民法」第1051条第3項及び第1038条第1項)による相続債権者と遺贈を受けた者は、相続財産で全額の返済を受けることができない場合に限り、相続人の固有財産からその返済を受けることができます(「民法」第1052条第1項)。
- 上記の場合、相続人の債権者は、相続人の固有財産から優先的に返済を受ける権利があります(「民法」第1052条第2項)。