債務名義の確保
債務名義の確保
- 賃貸借期間が満了しても賃貸人が保証金を返還しない場合、賃借人は賃借住宅に対し、保証金返還請求訴訟の確定判決や、その他これに準ずる債務名義に基づく競売を申請して保証金を回収することができます(「住宅賃貸借保護法」第3条の2第1項)。
※ 「債務名義」とは、国家の強制力により実現される請求権の存在と範囲を表示し、執行力が与えられた公正証書のことをいいます。
債務名義の確保前の準備事項
内容証明郵便の発送
- 賃貸人が賃貸借終了後も保証金を返還しない場合、賃借人は、賃貸借契約の事実、賃貸借が終了したことにより返還されるべき保証金の金額等を記した内容証明郵便を送付し、保証金の返還を督促します。
仮差押の申請
- 賃借人は保証金返還請求訴訟を提起する前に賃貸人の財産について仮差押をしておく必要があります。
※ 仮差押とは、金銭や金銭で換算できる請求権をそのままにしておくと、将来、強制執行が不可能または困難になる場合、予め一般担保となる債務者の財産を差し押えて現状を保全し、その変更を禁止して将来の強制執行を保全する手続きのことをいいます(「民事執行法」第276条第1項を参照)。
支払い命令の申請
支払い命令の概念
- 支払い命令とは、金銭、その他の代替物または有価証券の一定数の支払いを目的とする請求に対し、債権者の一方的な申請があれば、債務者を尋問せず債務者にその支払いを命ずる裁判のことをいいます(「民事訴訟法」第462条)。
支払い命令の申請
- 支払い命令を申請しようとする賃借人は、賃貸人の住所地を管轄する法院において以下の事項を記載した支払い命令申請書を作成・提出しなければなりません(「民事訴訟法」第463条、第464条及び第468条)。
· 賃貸人と賃借人の氏名
· 支払い命令の正本を送達するために必要な住所及び連絡先
· 請求金額
· その金額を請求できる趣旨及び原因
支払い命令の効力
- 支払い命令に対して賃貸人の異議申立がないか、または異議申立を取下げ、あるいは不適法な異議申立の却下決定が確定された場合は、支払い命令は確定判決と同じ効力を生じます(「民事訴訟法」第474条)。
民事調停の申請
民事調停制度の概念
- 民事調停制度は判決によらず、調停手続きを踏んで調停担当判事、常任調停委員または調停委員会が紛争当事者から主張を聞き、様々な事情を酌量し、調停案を提示して当事者の自主的・自律的な紛争解決努力を尊重しながら適正・公正・迅速かつ効率的に解決するためのものです(「民事調停法」第1条を参照)。
民事調停の手続き
① 調停申請書の受付
- 賃借人は民事調停申請書を作成し、賃貸人の住所地を管轄する法院に提出します。口述でも申請できますが、口述で申請する時は法院書記官等の前で陳述しなければなりません(「民事調停法」第3条、第5条第1項及び第2項)。
· 調停申請書には当事者、代理人、申請の趣旨と紛争の内容を明確に記載しなければならず、証拠書類がある場合、申請と同時にそれを提出しなければなりません。この場合、被申請人の数に相応する副本を提出しなければなりません(「民事調停規則」第2条)。
② 調停期日に出席(「民事調停法」第15条第1項)。
③ 調停の審理(「民事調停規則」第8条を参照)。
④ 調停の成立(「民事調停法」第28条)。
⑤ 合意が成立しない事件または当事者間に成立した合意の内容が相当でないと認められた事件の場合、調停に代わる決定(「民事調停法」第30条)。
⑥ 調停をしない決定(「民事調停法」第26条第1項)。
⑦ 当事者間に合意が成立せず、または成立した合意の内容が相当でないと認められる場合、調停は不成立(「民事調停法」第27条)。
⑧ 訴訟手続きへの移行
- 申請人が調停を申請したにもかかわらず、調停を行わない決定、調停の不成立、調停に代わる決定に異議申立があった場合、調停を申請した時に訴訟が提起されたものとして処理され、当事者が別途の申請を行わなくてもその事件は自動的に訴訟手続きにおいて審理されます(「民事調停法」第36条第1項)。
少額事件審判の提起
少額事件審判の概念
- 少額事件審判とは、3,000万ウォンを超過しない金銭、その他の代替物や有価証券の一定数の支払いを目的とする事件について、簡易手続きにより迅速に裁判が受けられるようにする制度です(「少額事件審判法」第1条、第2条及び「少額事件審判規則」第1条の2)。
少額事件の判断時期
- 少額事件に該当するかどうかの判断は、提訴の時を標準とします(大法院1986. 5. 27. 宣告86ダ137、86ダ138判決)。
約束手形の公証
賃貸人が支払った約束手形の公証
- 賃貸人が賃借人に賃借保証金の返還を約束し、手形を発行する場合、賃借人は賃貸人が発行した約束手形に公証を受けておくことをおすすめします。公証を受けた約束手形は、法律上の公的な証拠力が認められるため、当事者間の紛争を事前に防止する役割を果たします。
公証の手続き
- 賃借人と賃貸人はともに公証業務を取り扱う公証認可を受けた合同法律事務所または法務法人等の公証機関を訪問することで、公証を受けることができます。公証機関のない地域では、地方検察庁の支庁から公証を受けることができます(「公証人法」第8条を参照)。
· 賃貸人または賃借人のうち、一方が公証を申請する場合、身分証、印鑑、相手方の委任状と相手方の印鑑証明書が必要です。
- 公証を受けた約束手形には、強制執行できるという趣旨が記載された公正証書が添付されます(「公証人法」第56条の2第1項)。
公証の効果
- 賃貸人が約束手形の支払い期日にも金銭を支払わない等、約束を守らない場合、賃借人は公正証書を作成した公証機関から執行文を受け、強制競売を申請することができます。
保証金返還請求訴訟の提起
保証金返還請求訴訟
- 賃貸借期間が満了したにもかかわらず賃貸人が保証金を返還しない場合、賃借人は賃借住宅に対し、保証金返還請求訴訟の確定判決に基づく競売を申請し、保証金を回収することができます(「住宅賃貸借保護法」第3条の2第1項)。
保証金返還請求訴訟の提起
- 賃借人は賃貸人または本人の住所地を管轄する法院に賃借住宅に対する保証金返還請求の訴えを提起することができます(「民事訴訟法」第29条)。
保証金返還請求訴訟の特例
- 賃借住宅に対する保証金返還請求訴訟では保証金が3,000万ウォンを超過する場合でも「少額事件審判法」により訴訟手続きを迅速に行うことができます(「住宅賃貸借保護法」第13条、「少額事件審判法」第6条、第7条、第10条及び第11条の2)。
保証金返還請求訴訟の確定判決の効果
- 対抗要件と賃貸借契約証書上の確定日付を備えた賃借人は、競売または公売を行う際に賃借住宅(敷地を含む)の換価代金から後順位権利者またはその他の債権者に優先し、保証金の弁済を受ける権利を有し、少額賃借人の場合、最優先弁済権を行使することができます(「住宅賃貸借保護法」第3条の2第2項及び第8条第1項)。
- 賃借人は賃借住宅の換価代金から配当金を受領するためには、賃借住宅を譲受人に引き渡さなければなりません(「住宅賃貸借保護法」第3条の2第3項)。