産業災害補償保険の意義及び特性
産業災害補償保険の意義
- 「産業災害補償保険」とは、労働者の業務上の災害について迅速かつ公正に補償し、災害を被った労働者のリハビリテーション及び社会復帰を促すための保険施設を設置・運営するとともに、災害の予防及びその他労働者の福祉増進のための事業を行うための社会保険(以下、「産業災害保険」という。のことをいいます(「産業災害補償保険法」第1条を参照)。
産業災害保険の特性
- 産業災害保険は労働者本人の過失があるかどうかにかかわらず、産業災害補償保険の給付(以下、「保険給付」という。)を受けることができ、これは傷害保険等民間の保険より手厚く補償されます。また、障害・遺族年金制度及び再療養など多様なリハビリサービスを支援しています(出典:『2023年産業災害・雇用保険への加入及び賦課業務の実務便覧』2頁、勤労福祉公団を参照)。
※ ただし、民事上の損害賠償は、使用者等の故意または過失のある場合のみ支給を受けることができます(「民法」第750条及び第751条)。
- 業務上の災害を被った労働者が「産業災害補償保険法」に基づき、保険給付を受け、または受けることができる場合、保険加入者は同一事由に対し、「勤労基準法」に基づく災害補償の責任が免ぜられます(「産業災害補償保険法」第80条第1項)。
- 産業災害保険料は原則的に事業主が全額負担します(「雇用保険及び産業災害補償保険の保険料徴収等に関する法律」第13条第1項)。
※ 「雇用保険法」に基づく雇用保険料は、事業主と労働者がそれぞれ半分負担します(「雇用保険及び産業災害補償保険の保険料徴収等に関する法律」第13条第2項)。
- 保険給付は業務上の災害に対する損害全てを補償するのではなく、平均賃金に基づいて算定された一定の金額を補償します(「産業災害補償保険法」第36条第3項から第8項まで)。
「産業災害補償保険法」の適用範囲
適用範囲
- 「産業災害補償保険法」は労働者を使用するすべての事業または事業場(以下、「事業」という。に適用されます(「産業災害補償保険法」第6条本文)。
適用除外
- 「公務員災害補償法」、「軍人年金法」、「船員法」、「漁船員及び漁船災害補償保険法」、または「私立学校教職員年金法」に基づいて災害補償が受けられる事業については、「産業災害補償保険法」は適用されません(「産業災害補償保険法」第6条ただし書き及び「産業災害補償保険法施行令」第2条第1項)。
※ 「公務員災害補償法」などが適用され、「産業災害補償保険法」が適用されない事業の労働者が災害を被った場合、その労働者は「公務員災害補償法」、「軍人年金法」、「船員法」、「漁船員及び漁船災害補償保険法」または「私立学校教職員年金法」に基づいて災害補償を受けます。
- なお、世帯内雇用活動、農業、林業(伐採業は除く)、漁業及び狩猟業のうち法人でない者の事業であって常時雇用労働者の数が5名未満の事業の場合も、「産業災害補償保険法」の適用対象外となります(「産業災害補償保険法」第6条ただし書き及び「産業災害補償保険法施行令」第2条第1項)。
※ 「産業災害補償保険法」が適用されない事業の労働者が業務上の災害を被った場合(「産業災害補償保険法」の適用除外事業の内、産業災害保険に任意で加入した事業は除く)、当該の労働者は「勤労基準法」第78条から第92条に基づき、災害補償を受けなければなりません。
産業災害保険への加入
産業災害保険の加入者(事業主)
- 当然加入
·「産業災害補償保険法」が適用される事業の事業主は、産業災害保険の保険加入者となります(「雇用保険及び産業災害補償保険の保険料徴収等に関する法律」第5条第3項)。
- 任意加入
·「産業災害補償保険法」の適用を受けない事業の事業主は勤労福祉公団の承認を受け、産業災害保険に加入することができます(「雇用保険及び産業災害補償保険の保険料徴収等に関する法律」第5条第4項)。
- 擬制加入
· 産業災害保険の当然加入者になる事業が事業規模の変動などにより、「産業災害補償保険法」の適用除外事業に該当することになった時は、その事業主はその該当日より産業災害保険に任意加入したものとみなします(「雇用保険及び産業災害補償保険の保険料徴収等に関する法律」第6条第2項)。
· 当然加入または任意加入した事業主がその事業の運営中に労働者を雇用しなくなった場合には、その日より1年の範囲内で労働者を使用していない期間中であっても、産業災害保険に加入したものとみなします(「雇用保険及び産業災害補償保険の保険料徴収等に関する法律」第6条第3項)。
産業災害保険の受給権者(労働者)
- 業務上の災害を被った、産業災害保険に加入している事業の労働者は、産業災害保険の受給権者になります(「産業災害補償保険法」第1条及び第36条第2項)。
- 「労働者」とは、職業の種類にかかわらず、賃金を目的に事業や事業場に労働を提供する者のことをいいます(「産業災害補償保険法」第5条第2号及び「勤労基準法」第2条第1項第1号)。
·「労働」とは、精神労働と肉体労働のことをいいます(「勤労基準法」第2条第1項第3号)。
·「賃金」とは、賃金、給料、その他いかなる名称であれ、使用者が労働の代価として労働者に支給する一切の金品のことをいいます(「勤労基準法」第2条第1項第5号)。
業務上の災害と産業災害補償保険給付
業務上の災害と産業災害補償保険給付
- 産業災害補償保険給付(以下、「産業災害保険」という。は、産業災害保険に加入している事業場の労働者が、業務上の災害を被った場合に支給されます。
業務上の災害
- 業務上の災害の意義
· 「業務上の災害」とは、業務上の事由による労働者の怪我・疾病・障害、または死亡のことをいいます(「産業災害補償保険法」第5条第1項)。
- 業務上の災害の認定基準
· 労働者が業務上の事故または業務上の疾病により、怪我・疾病・障害が生じ、または死亡した場合、業務上の災害とみなします(「産業災害補償保険法」第37条第1項本文)。
· ただし、業務上の事故または業務上の疾病により怪我・疾病・障害が生じ、または死亡した場合でも、業務と災害との間に相当因果関係がない場合には、業務上の災害とはみなしません(「産業災害補償保険法」第37条第1項ただし書き)。
· 上記の業務上の災害認定基準をすべて満たした場合でも、労働者の故意・自傷行為、犯罪行為またはそれが原因となって発生した怪我・疾病・障害・死亡は、業務上の災害とはみなしません(「産業災害補償保険法」第37条第2項本文)。
保険給付
- 業務上の災害を被った労働者は「産業災害補償保険法」に定められた要件に基づき、療養給付、休業給付、障害給付、看病給付、遺族給付、傷病補償年金、葬儀費、職業リハビリテーション給付などの保険給付を受けます(「産業災害補償保険法」第36条第1項本文)。
※ ただし、業務上の事由により塵肺症にかかった労働者は、療養給付、看病給付、葬儀費、職業リハビリテーション給付、塵肺症補償年金及び塵肺症遺族年金を保険給付として受けられます(「産業災害補償保険法」第36条第1項ただし書き)。